太田出版
10/08/20
1200＋税
政治、経済、労働、あらゆるものから解放された、真の都市型ライフ。
<都市の幸>とは、ゴミのこと。
あらゆるものが落ちている都市で、どこにも所属せず、段ボールハウスで暮らす。
自給自足のホームレスに感銘を受けた著者は、その暮らしぶりをマニュアル化し、思想の転換を提唱する。
思考実験としてはいいだろうけど、実際問題としてホームレス生活はかなり難しいのではないかとは思う。
だいたいまず、子供を育てるということはできないだろうし。
不景気な昨今、いつリストラされるかわからないし、いざその時になった時、ホームレスでも楽しく生活できるということがわかっていれば、参考に……なるのかなあ。
ポプラ社
06/08/05
1500＋税
職業外伝の続編。
失われつつある日本の伝統職を取材したノンフィクション。
イタコ、映画看板絵師、鵜匠、荻江節、琵琶盲僧、蝋人形師、チンドン屋、流し。
そういう職業が存在するということは知っていても、身近にはいないし、知り合いにもいない。
すでに都市伝説か歴史の一部になっているような職業だけど、それが天職だという人もいる。
彼らはどうやってその職業と出逢い、その職に就くことになったのか。
天職を得た人間の生き生きしている様は、ものすごく羨ましい。
おすすめの一冊。
バジリコ
07/08/10
1200＋税
みんなの知らない国防組織の真実
30年に渡り自衛隊を観察し続けてきたウォッチャーによる、自衛隊解剖本。
というわけで。
組織の外側から収集した情報に基づいているので、きっと、本来の姿とは違うのだろうと思う。
どのあたりが裏側なのかわからないけど、人の集まるところ、いろんなことが起きるのは常道だし、自衛隊員も普通の人間ですよというエピソードとしてなら、面白いのかもしれない。
双葉社
07/03/30
1143＋税
諦めたらそこで終わりだよ。
人生、諦めたらそこで終わり、まだまだ道は続いていようが、それはあくまでも余生であり、いわばオマケの時間なのだ。
だがしかし。
本書に登場する人たちの中には、そもそも諦めるという概念がない。
自分がやりたいからやる。
ただ、それだけ。
実にシンプルな人生だ。
登場するのは、すべて老人と呼ばれる世代の人たち。
元大学教授の女装家、80過ぎの現役AV男優、エログッズ蒐集展示家、84才のラッパー、自力で城を建設してみたり、皇居の周りを頼まれもしないのに警備したり、精力的というより、精力あり余っているウルトラハイパー老人たちへのインタビュー集なのだ。
インタビューと写真で構成された本書からは、ムンムンとした熱気が立ち上ってきているようで、さながらそれは、生命力の熱気なのかもしれない。
どの人も、これだ！と思った自分の道をわき目もふらずに邁進している。
写真の中の彼らの目は、誰もがキラキラしていて力強い。
人間、最終的に残るのは、好きだ、やりたい！という気持ちなのだということが、よくわかる。
世間的にみたら変人の部類にはいるだろうが、自分が楽しければいいのだ。
それが、たぶん「人生を楽しむ」ことなのだろうと思う。
見習いたい。
文芸春秋
06/12/15
1143円＋税
ＮＨＫ教育の番組「課外授業〜ようこそ先輩」の書籍化。
各界の著名人が、自分の出身小学校に行き、一日だけの特別授業をするという趣向の番組で、この本に取り上げられているのは、演出/俳優/脚本等で活躍している、松尾スズキ。
松尾さん主宰の劇団大人計画にひっかけて、授業は「大人とは何か？」をテーマに送る。
ものすごい、斬新。
小学生たちに、大人だなあと思う行動を挙げさせたり、大人の定義を考えたり、自分たちで大人を演じてみたりする。
普段……どころか日本中探したって、こんなに真摯に「大人」を考えている小学生はいないだろうというぐらい真剣に、授業は進む。
それはまた、小学生に負けないぐらい真剣に「大人」を考えている大人である松尾先生もいるってことで、更に、本書を読んでいる大人である読者も、ついつい「大人」について考えをめぐらせてしまうのである。
忘れがちな、大切なことを再認識させてくれるような気がする本。
すばる舎
07/02/22
1400円＋税
著者は経済評論家。
お金の専門家であるはずの著者が、いとも簡単にひっかかってしまった詐欺。
それが、いつになっても根絶しない詐欺の一つ「架空請求詐欺」である。
齢六十を過ぎ、妻に先立たれてしまった著者は、寂しさのあまり、つい出来心で出会い系サイトを利用してしまう。
そこの情報がどこかに売られたのだろう。
ある日突然、なんの前触れもないし、著者のケータイが鳴るのだ。
アダルトサイトの接続料の未払いがありますと。
心当たりのあった著者は、外聞の悪さと、脅されているという恐怖から逃れたい一心で、さほど疑うこともなく、金を振込んでしまう。
これでもう安心と思いきや、またもや電話がかかってきたのだ！
赤裸々と詳細に状況を語るので、ある意味詐欺シュミレーションになっていいかもしれない。
だが、ちょっと文章が冗長で読んでいて、飽きてもくる。
著者の弱点は、自分がネットも使いこなせると少し自負があったこと、そのわりにはネットを使った詐欺についてまるで知らなかったこと、見栄を張り周囲に相談しなかったことなどが挙げられる。
自らの失敗から、何かを学んで欲しいという熱意だけはとてもよくわかる。
危ないところには近づかない、をまず実践したいもの。
小学館
05/12/01
2100円＋税
パトリシア・コーンウェルの小説「死体農場」のモデルになった実在の施設。
だが、残念ながら検死官シリーズは読んだことがないので、どこをどう使われているのかが、わからない。
タイトルからして、大量殺人事件の死体を埋めた男の話かと思っていたら、違った。
アメリカテネシー大学人類学研究施設。
法医人類学科の教授であるビル・バスは、ある画期的な研究をすることにした。
すなわち、一定条件下に置いた死体の経過観察。
死体がどのように腐り、ウジがわくのかという実験データの取得である。
大学の隣地に実験施設を作り、屋外に放置したり、池に沈めたり、土の中に埋めた死体を、延々と観察し続ける。
その実験で得たデータは、アメリカだけでなく世界中で利用され、殺人事件の調査に転用されている。
死体は献体、または身元不明の行き倒れの死体だそうだ。
日本人の倫理観からすれば、死体損壊ともとれるこのような実験には理屈ぬきで不謹慎だと思ってしまうのだが、実際にこの実験から得たデータで、アリバイが崩れ犯人が捕まったことがあると聞くと、素晴らしい実験であると思わざるを得ない。
本書は死体の経過観察ではない。
ビル・バスが関わった、殺人事件の調査に関するエピソードが主となっている。
物言えぬ被害者から、最後の言葉を聞き出す法医学者。
ミステリよりもミステリアスな本当の話。
草思社
05/12/01
1700円＋税
またの名を、ジャーナリスト大泉実成の頭の中をめぐる冒険……なのかもしれない。
自らの思想や体験を基調に物語を綴るノンフィクションライターの大泉氏。そのだだ漏れ感覚で、好き嫌いがわかれるのかもしれないが、自分はとても好きな作家の一人だ。
今回、大泉氏が興味を持ったのは「人格障害」
精神病者ではないが、普通の人間でもない。麻原、宅間、宮崎、サカキバラと重大犯罪を起こした犯人たちは、皆これなのだそうだ。
現象に名前をつける。
そうすると安心する。
前時代では、それは妖怪の役割だったが、現在では残念ながら新たな妖怪は生まれない。
仕方がないから、いろんなところから言葉を持ってくる。
「人格障害」というのは、米国精神医学協会のガイドラインによるもので、一昔前に日本に輸入されてきた概念だ。
現在では、いろいろと問題があるとも論議されているが、それでも、日本では相変わらずこの言葉が使われている。
大泉氏はそれを「片づけ」と呼ぶ。
取り合えず、名前をつけて片づけてしまえば、安心する。安心して、他のことができる。
だが、それでいいのかと。
大泉氏の頭の中の迷宮。
人格障害という言葉を巡る冒険のうち、ADHDである息子のことや、東海村で被爆した両親とその裁判のことなども言及される。
果ては、裁判相手の国に対して「人格障害的組織」なんて名前までつけてしまう。
最後まで混沌とした迷宮の中を彷徨うままで、結論はまったく出ていない。
もやもやするこの後味こそが、「人格障害」という後味の悪さなのかもしれない。
いや、それは穿ちすぎか。
小学館
06/04/20
1500円＋税
絞首刑への階段は13段。
14階段というのは、ある意味死刑へ向かう階段よりも悲惨な階段でもある。
新潟少女監禁事件。
日本中が、そんなアホなと叫んだ信じられない事件。二階に監禁されていた少女、その二階への階段が14階段。本書は、その階段をのぼることを許されなかった、犯人の母親を取材したルポである。
フライデーの元記者である著者は、雑誌の仕事で事件を追い始める。ひょんなきっかけから、母親と面識を得た著者は、本人対象の取材を、母親対象へと切り替える。
バリバリのキャリアウーマンだった母はなぜ、無職引きこもりの息子を許してしまったのか。
本当に息子がしていたことを9年間も知らなかったのか。
著者は、フライデー編集部を退職した後も、執念じみた取材を続ける。
しかし、残念ながらいくら母親を取材をしたとしても、犯人の心の中は本人にしかわからない。
被害者家族のいたたまれなさに次第に感情移入していく著者の心情はわからないでもないが、わかると素直には言うことはできない。
結局、最後まで「14階段」は著者の前に立ちはだかり、その奥に潜む何かは姿を隠したままだ。それは最後まで本書を読んでしまった、読者とて同じだ。
一人の犯罪者は、たくさんの人間を不幸にする。それだけは、よくわかる。
洋泉社
05/03/17
2200円＋税
2001年、浅草で女子大生が通り魔に刺殺された。
その10日後、犯人は捕まったが、逮捕時にレッサーパンダの帽子をかぶっていたことにより、レッサーパンダ男事件とも呼ばれることになる。
その後、犯人には知的障害があり自閉症者であることがわかると、急速にマスコミによる報道がなくなっていく。まるで、最初からなかったことのように。
著者は、養護学校教諭後ジャーナリストに転身した人。犯人と同じような人たちと関わってきた経験から、この事件を追い続け、裁判にも足を運ぶ。
だが、著者の立場は中立。
加害者弁護に始終するわけではなく、被害者の心情にも寄り添っている
。その上で、ハンディキャップを持つ人々たちが起こした犯罪を裁くにはどうしたら良いのかということを、本書で模索している。
それはとても難しい。
結局、この裁判もモデルケースになることはなく、ごく普通の殺人事件として処理されてしまった。悪いことが悪いとわからない犯人が刑務所に入って、正しく更正するのか。そもそも、なにを持って正しい更正と見なすのか。
どんな人間にも社会で生きる権利はある。だが、その権利を侵害された人間はどうすれば良いのか。はたまた、それ権利を侵害した人間はどうすれば良いのか。権利自体を理解していない人間に、他人の権利を奪うことがどういうことなのか、説明するにはどうすれば良いのか。
加害者側、被害者側をそれぞれ取材し、悲惨極まる現実をあぶりだす。
加害者の実の妹は、末期ガンでありながら、家族にふりまわされ、自分の治療費を稼ぐために働いていた。この事件をきっかけに、福祉の手が差し伸べられたが、妹は自分の今の幸福は、被害者の上にあると自覚していたそうだ。
とてもとても哀しい話だ。
誰も悪くない。
なのに、悲劇はおきる。
ぜひ、一読を。