あ行-2

集英社
99/11/30
1900円＋税

【収録作品】
おもひで女
瞼の母
Ｂ１公爵夫人
グノーシス心中
シカバネ日記
甘い血
罪と罰の機械
蜜月の法
翁戦記
＜非－知＞工場
電波大戦
我ハ一塊ノ肉塊ナリ

まだまだホラーブームというのは続いているようで、いろんなジャンルからいろんな作家が参入してきているようなのだけど、やはり、ブームに関係なく、ホラーに魂を売り渡している作家の作品が、一番おもしろいのは当然だ。
９８年角川ホラー大賞・佳作授賞の牧野修の待望の短編集。
廣済堂の異形コレクションや、その他、ＳＦマガジン等雑誌に載ったものが収録されている。
牧野ファンならずとも、ちょっとでも、ホラーやＳＦ、幻想小説が好きなアナタであるならば、この本は今世紀最後のプレゼントになること請け合い。
奇妙系の「おもひで女」、スプラッタ系の「瞼の母」「Ｂ１公爵夫人」、センチメンタルホラー系の「グノーシス心中」、ＳＦ系の「我ハ一塊ノ肉塊ナリ」、ファンタジー系の「蜜月の法」「翁戦記」
いろんな種類の怖さが味わえるのも、短編集の嬉しいところ。
個人的に一番好きなのは、電波系の「電波大戦」。
筒井康隆を髣髴させる、固有名詞の電波嵐が吹き荒れる作品は、この手のものが好きな人間には、まさに、猫にまたたび
状態であることを保証する。
短編集の間を接着するかのように、「忌まわしい匣」という
ストーリーが挟みこまれているのも、著者のこだわりを感じさせて嬉しい。
太陽よりも月を愛するアナタにお勧め。

文藝春秋
99/05/10
1524円＋税

地方都市の国立中学校。
すべて管理されたその学校は、一年から三年までをクラスごとにわけ、ことあるごとに競わせるという方針をとっていた。
穏やかで理知的なその都市で、女子小学生が殺され吊り下げられるという、猟奇殺人事件がおこる。
犯人はほどなく捕まる。それは、まだ中学一年の少年であった。
主人公は、犯人の少年の兄。
いきなり弟の犯罪に巻き込まれてしまい、家族は傷つきバラバラになる。
が、兄は、誰か弟のことをわかっている人間がいなければならないと決意し、弟の心の足跡をたどることを決意する。
兄に対する執拗な嫌がらせ。次々に浮かびあがってくる謎の事実。
本当の犯人は別にいる……？
実に真っ当な小説。
犯罪を犯してしまった弟を理解しようとする兄の姿が、けなげでそれだけで泣けてしまった。
三人称と一人称が交互に繰り返される、だが、途中で一人称に固定されてしまう、ちょっと読みにくい構成は、いまいち……とは思うが、そんなこと関係なくなるほど、物語世界にひきこまれてしまうのだ。
本当の強さ優しさとはなにか、考えてしまう物語である。

幻冬舎
99/03/10
1800円/1900円円＋税

ヒューマンミステリなんだそうだ。
ミステリをスパイスとしてではなく、メインとして使い、感動大作に仕上げた手腕には敬服する。
殺人事件は、読者の興味をひくためのこけおどしではなく、彼らの心の闇を映しだす鏡として描かれているのだ。
なんて、哀しい物語なんだろう。
９９年、最大の話題作。
こんなくそ厚いハードカバーが86万部も売れたということ事実だけで、内容のレベルの高さが証明されているようなものである。
まだ読んだことのない方は、是非、いや、絶対に読んでいただきたい。
できることならば、全国民必読書にして、感想文大会でも開いて欲しいぐらいだ。
四国の片隅にある、児童専門病院。
そこには、児童虐待の犠牲者である子供を収容する、精神病棟がある。
精神病棟の子供たちは、他の科の子供たちから「動物園」と呼ばれ、動物の名前のあだ名をつけられている。
差別はどこにでもあるものだ。
その病棟で出会った、三人の子供たち。
互いに互いの存在に救いを求め、救いを求めるために起こした事件が、三人の絆をバラバラにする。
別れ別れになった三人は、18年後、運命に導かれるようにして、再び出会う。
過去の傷痕は癒えず、求めていた人に出会ったことが、更に新たな傷を呼び起こす。
生きることは、辛い。
いいことなど何もない。生き地獄なような生活の中で、それでも、人は生きるための意味を求める。
「生きていてもいいんだよ」
その一言をもらうために、人は生きているのかもしれない。

角川ホラー文庫
99/12/10
149円＋税

９９年度、角川ホラー大賞・短編賞受賞作である。
ちみに、同年の大賞は同じく短編の「ぼっけえきょうてえ」。
主人公はごく普通のありふれた女子高生。
その高校生の父親が死んだ。
ありふれた高校生の、ありふれた家族の、ありふれた死のはずだったのに、彼女の家の葬式は実に珍しいものだった。
女子高生の一人称で、びゅんびゅん飛ばす文体で語られる物語は、ホラーというほどの恐怖ではなく、実にさらっとした手ざわりである。
さらっとした手ざわりで、すいすい読んでしまうと、最後の最後でゾッとさせられる。
友達だと思って喋っていたのに、突然、知らない人だと気づいた時のような違和感。
なかなかおもしろいホラーだと思う。
今後の活躍が楽しみ。