た行-11

集英社
07/10/30
1200円＋税

遅筆で有名な著者が、ふと気づいたこと。
ショートショートなら短時間で書ける！
星新一に見いだされ、奇想天外新人賞でデビューしたことが知られている著者だが、ショートショートも書けるとは、誰も思いもしなかったのではなかろうか。
星新一張りのダークでメリハリのある作品とは真逆とも言える、もやもやと柔らかく、つかみ所がない優しい感触の物語たち。
まさに、小さな世界、小さなお話。
初めて新井素子に触れる人も、往年のファンにもオススメの一冊。

祥伝社
06/07/20
1800円＋税

1974年、群馬の寒村でおきた凄惨な殺人事件。
熊の仕業とも思える、力まかせに人間をたたき壊したようなその殺し方は、だが、遺体の痕跡からしてヒトの仕業だと思われた。
身長2メートル、体重200キロ以上のヒトがいるとしての話だが。
それから26年後、記者である道平は事件現場の寒村を訪れていた。
当時事件を追っていた道平は、鑑識の大貫から資料をもらい再度事件を調べ始める。
事件の起きる前に起こった事故、村八分にされていた女の疾走、そして、ちらつき始める米軍の影。
3.11テロにも絡んだこの陰謀は、ある一つの事実を隠すために仕組まれたものだった！
驚愕のその真実とは！
天狗……というタイトルは上手いとも上手くないとも言えそう。
山の神という意味ではあっているかも。
こじつけとも思える強引な部分もあるけど、サスペンスミステリとしての疾走感はすごい。
驚愕のラストまで一気に読むべし。

メディアワークス
07/11/20
1600円＋税

原発テロがおこり、そのテロのヒントになったとして槍玉に挙げられた小説。
作者の当麻はメディア良化委員から拘束されそうになったところを、関東図書隊に保護される。
言論封殺を狙う良化委員会、メディア良化法撤廃のためには一作家の犠牲はやむなしと考える身内、だが、一人の作家を守れなくて何が図書隊だ。
堂上と郁は亡命を提案する。
彼らの戦いは無事に決着がつくのか！
図書館シリーズ最終刊。
最終回に相応しく、謀略絡んだストーリー、まっすぐに進む主人公、つかず離れずだった恋にも見事な決着がつく。
言論の自由を守るために戦う。
単純明快なテーマは、本好きの人間の心を必ず揺さぶるはずだ。
しかし、甘いなあ、甘いラブラブすぎだろう、これは。

メディアワークス
06/12/01
1600円＋税

【収録作品】
王子様、卒業
昇任試験、来たる
ねじれたコトバ
里帰り、勃発
図書館は誰がために

言論の自由を守るべき武装した図書館隊員の活躍を描く図書館シリーズ第三弾。
主人公郁が図書隊を目指すきっかけになった「王子様」
彼の正体がついに発覚……そして、堂上への恋を自覚。
一方、良化委員との抗争も激化をたどり、手塚兄の策略も深みにハマる。
本を言葉を守るためには、時として自ら武器を取り戦わねばならない、心身ともに傷つくとわかっていても。
有川浩は相変わらず容赦がない。
べた甘ラブストーリーの影に隠れて重たいテーマをきっちりと描いている。
大切なものはなにか、大切なものを守るために自らの手を汚すことを誇りに思えるか。
いろんな方向から読み解ける物語。
まあ、単純に面白いんだけど。

竹書房
06/08/04
552円＋税

【収録作品】
安置所ホテル
正座
夜の声
霧
泥竹
神社の傘
鬱だ死のう
他

竹書房版「怖い話」シリーズ8冊め。
この恐ろしいほどの安定感はなんなんだろう。
編者平山夢明による実録怪談も新しい局面を迎えているようで、ここらで新しい書き手を募集するという「超-1グランプリが開催された。
本書の巻末にその選考が載っている。
人間が存在している限り、怖い話はなくならない。なぜなら、人の影のその中に恐怖が隠れているからだ。

光文社
07/02/25
1600円＋税

剣道男子部、女子部の部長同士。
いつしか二人は愛し合うようになり、その夏、少年は少女を永遠に愛し抜くと誓った。
だが、少女が家庭教師をしていた一家が惨殺され、彼女は重要参考人として連行された。
少女は何があったか黙して語らず、ひっそりと町から消えた。
あの夏、少年は少女を守り抜くことができなかった。
19年後、はみ出しものの刑事になった少年は、かつて愛していた少女と再会する。
彼女は経済ヤクザの妻となっていた。
19年前にいったい何があったのか。
彼女を変えたのは何か。
そして、少年はあの夏の誓いの通り、彼女を愛し守り抜くことができるのか。
主人公の少年の、高校時代と刑事時代の落差があまりに激しく、その落差の分だけ彼女のことを愛し苦しんでいたのだとわかる。
だふん、その解釈でいいんだろう。
だって、あまりにも別人だし。
「君が笑ってくれるなら、僕は悪にでもなる」
まさに、先のない純愛。

幻冬舎
06/05/25
1300円＋税

天才美少女作家としてチヤホヤされまくりの主人公。
だがしかし、ある日突然、小説がまったく書けなくなってしまったのだ。
ヤケになった彼女は、中年てっぺんハゲ担当編集者を監禁！
赤一色のイカレタマンションの一室で、閉じ込めた美少女と閉じ込められた中年のスリリングな駆け引きが始まる。
中世キリスト教徒がしていたという「トンスラ」という髪型。
担当編集者が同じ髪型をしているのは、偶然なのか運命なのか？
放送作家都筑浩の初小説で、後にドラマにもなった作品。
登場人物二人の掛け合いは面白いけど、ストーリーはどうかなぁ？
キリスト教に絡めた、救いの物語。

文藝春秋
06/09/15
1714円＋税

【収録作品】
天才たちの値段
紙の上の島
早朝ねはん
論点はフェルメール
遺言の色

元華族のお屋敷の地下室から発見された、ボッティチェッリ作だと言われる絵画。
真作ならば世紀の大発見だが、贋作ならば大損をしてしまう。
美術商から鑑定依頼をされた大学教授は、天才鑑定人・神永美有とともに華族の屋敷に出かける。
神永美有は若き天才と称されており、本物ならば舌に甘く、偽物ならば苦く感じるのだという。
二人はそれぞれの得意分野で、真贋を極め、そしてまた、美術品にまつわるミステリに巻込まれていく……
天才鑑定人神永美有と語り手である大学急教授が活躍する、世にも珍しい美術ミステリ。
物語のほんどは、美術品の真贋判定とそれにまつわる人間の欲望の深さを描いたもの。
連作短編集であるのに、その内容の濃さといったら。
美術関係の蘊蓄と、その蘊蓄を根拠にした謎解き。
ちょっと高尚な気分に浸れるひととき。

洋泉社
07/08/09
1300円＋税

「新耳袋」と言えば、言わずと知れた実録怪談ものの草分けであり先駆者であり、今現在の怪談ブームの仕掛け人であることは間違いがない。
1年に1冊ペースで刊行し、2005年に全10巻で惜しまれつつも予定通り完結した。
だが……
それは本当に終わりではなかったのだ！
映画秘宝という怪談とは関係なさそうな雑誌に連載されていた本作は、新耳袋に出てくる有名心霊スポットに突撃取材をかまそうという、ただそれだけの本。
本家の執筆者に了解を取り、本の構成も本家とまったく同じ。
××にまつわる十の話……とか、目次を見ただけで、再来だ！
と歓喜の涙を流した人もいるかもしれない。
でも、涙はもったいないから取っとけ。
新耳袋の中でも大ネタとされる、京都幽霊マンション、天狗神社、のぶひろさん、山の牧場。
それに加えて、中ネタ小ネタの関西心霊スポットの突撃取材を敢行。
その姿勢は本当にマジで、突撃としか言いようがない。
特に霊感があるわけでもなし、霊能者を依頼するわけでもなし、ライターである著者と編集、そして何人かのスタッフと一緒に、ただひたすら、心霊スポットに突入する。
待ち合わせ時間に遅刻したり、深夜の取材に懐中電灯を忘れたり、警察に職質されたり、怖いことがおこるかなと見せかけて何もおこらなかったり、これは本当に怪奇ルポなのか？
と思わせることに成功している。
というか、この本は怪奇ルポではなく、夜中に盛上がって心霊スポットに行ってみよう！というノリを再現した本なのだ。
ホラー映画では、たいていそういうバチ当たりな輩には、怖いことがおこるのだが、さすが現実はそううまくはいかない。
取材班のドタバタぶりを笑って読むのが、正しい読書方法なのかもしれない。