グレープフルーツちょうだい

【物　語】
日本のどこかにある断酒塾。
そこでは、アルコール依存症の人々が、住み込みで畑を耕しながら、自分の中の欲望と戦っていた。半年間の断酒を記念して、いっぱいだけビール（通称・半年ビール）を飲んだクドウは、今後もこういう生活が続くことに絶望し、２階から飛び降り自殺をはかるが、足を骨折したまま坂の下のコンビニに乱入し、酒を飲み大暴れし、そのまま病院に入院してしまう。

「飲んだら殴る」をスローガンにしている塾長は、恐怖政治で残された塾生たちをしごいていく。
元アイドルのコージ、キャバクラ嬢のツバキ、小劇系劇団の舞台監督助手をししているアラカワ、塾長が惚れているスタッフのユセフが、ここのメンバーだ。
その中に、連続70時間飲酒の記録を持つ岩松マイコを入塾させるため、夫が塾の様子を見にくる。夫は妻のために体験入塾をするといって、塾に居座るが、いろいろと話を聞いているうちに、その夫こそが、アル中の岩松マイコだと判明する。マイコはどこをどーみても、中年男性にしか見えないが、れっきとした女性らしい。

塾長の好物はグレープフルーツサワー。生のグレープフルーツジュースでサワーを作り、酒を飲めない塾生にみせびらかしては喜んでいる。誘惑に負けて、サワーを飲んでしまったものは折檻のうえ、牢屋に閉じ込められるのだ。
共同生活を送っているうちに、コージとツバキは付き合おうかという話になる。塾長に横恋慕されているユセフは、彼女と塾長の板挟みになり、塾を辞めることを決意する。
そんなこんなな時に、入院していたクドウがマイコを迎えにやってくる。実はマイコは毎日クドウの見舞いに行っており、夫とクドウとの間で悩んでいたのだ。

そんなある日、ボランティアの大学生、カナがやってくる。若くてかわいいカナの登場で、男どもは全員カナの虜となる。ツバキとマイコは、嫉妬めらめらでカナをいびる。
そうこうしているうちに、カナがカナダに留学することになり、盛大な送迎会が行われた。断酒塾にもかかわらず、全員べろんべろんに酔っぱらう。
塾長はアラカワに、生グレープフルーツをしぼり、サワーを作る機械を作るように注文していたのだが、その機械ができあがり、マイコの手によって、グレープフルーツサワーが作られる。
だが、その液体は赤く、差し入れ口にはカナのものとそっくりの長い黒髪がデレデレとのぞいていたのだった。

【感　想】
一年ぶりのウーマンリヴ。
今回は、一つの部屋の中だけで起こる、ワンシチュエーションコメディ？　なのかなあ。よくわかんないけど、断酒塾に集う人々の、ちょっと世間とずれてる不思議で変で奇妙で怖い日常を描いた、お芝居。
役名と芸名が一緒なので、最初はすごい違和感があり。だって「やったね、クドウさん」「ありがとうよ。阿部ちゃん」みたいな感じなんだもん。まあ、 そのあたりの違和感もすでに計算づくなんだろう。

しかし、なによりすごかったのは、岩松了さんっ！
岩松さんが大人関係の芝居に出るというのもすごいんだが、大人系役者を全部くってしまってんのが、ものすごい。半端じゃない、素晴らしい。今回、どこを どーしても中年男性にしか見えない女性を、実に無気味に健気に演じてらっしゃいました。

前回のように、一つの破滅に向かってすべてが収束していくという筋立てではないので、ちょっと散漫な印象もあるけど、きっと、これはこれでいいんだろう。たぶん。

役者さんそれぞれの、キャラ立ちが強烈っ！　特に皆川さんの気色悪さは、出色。猫背さんも、相変わらずすごくいい。最近、猫背さんの芝居が好きなわたしとしては、ものすごく嬉しい。総じて、下品な芝居がうまい大人女優陣だが、猫背さんはめきめきと力をつけてきてると思う。外部演出で見てみたいなあ。
新人の平岩嬢も、下品をうまくこなしてたと思いまっす。とにかく、細くて白くてかわいい。なんで、こんな人が大人計画に……。そのうち、松尾さんの餌食になってしまうんだろうか、嗚呼。

阿部ちゃん、相変わらずのかわいらしさ。30過ぎてるのに、あのかわいらしさはなんだ、反則だろう。宮藤さん、真ん中ずっぽり出番ないのが、ちょっと寂しいなあ。ロセフさんの謎のイラン人もよかったです。
なにより、断酒塾というところに目をつける、クドカンには脱帽。