春子ブックセンター

【物　語】
とある寂れた温泉地にあるストリップ劇場。何をやらせてもダメダメな春子は、今日も本番前にストリッパーたちから吊し上げをくらっている。客にプレゼントするパンティを洗っていなかったことを怒られ、春子はパンティを買い物に行かされる。
劇場に集うのは場末のストリッパーと売れない漫才コンビ。唐突に支配人は、今日で劇場を閉鎖すると発表する。恋人の大田下丸子と借金踏み倒して駆け落ちするというのだ。給料も払えないので、みんな自分でなんとかしてくれと言われ、一同、騒然となる。

よりによってそんな時に、元売っ子漫才師のブックとセンターが楽屋を尋ねてくる。二人は人を捜しているらしい。その人はなんと春子。
春子は昔、この二人と一緒に「春子ブックセンター」というマニアックな漫才トリオを組んでいたのだった。が、春子がストリップ劇場で騒ぎを起こしたことから解散し、春子は行方不明になっていた。
ストリッパーたちの前では売っ子ぶってる二人だったが、実は内情はもうホントにギリギリ。なんとか春子を探し出し、起死回生の一発を狙っていたのだ。
ブックの偉そうな態度にストリッパーたちは反感を持ってしまう。更に、ストリッパーの一人桜が、ブックの妹であると発覚。桜は兄に反抗するためにあえてストリッパーになったのだった。

そんな騒ぎの中、春子が戻ってくる。春子は再結成を拒んでいたが、ブックとセンターの説得により心を開いていった。やっとその気になった春子だったが、ブックを追っかけてきた音楽ライターが話す、春子をダシにしたブック復活劇を聞いてしまい、態度を硬化させる。

すっかり怒ってしまった春子は、ブックとセンターに無理難題をふっかける。なぜか、楽屋にいた全員で春子の要求通り、おもしろいことをやるハメになった。莉奈のおっかけの二人も騒ぎにまきこまれる。勅使川原は実は熱烈な春子ブックセンターマニアであった。
逆切れしている春子は、つまらないことをやったアキラに包丁をつきたてるが、実はそれは着ぐるみにはいっていた桜だった。桜は兄が改心するまで病院にいかないと言い張り、急遽、かつての「春子ブックセンター」は桜の前で会心の漫才を披露する。
莉奈のコネにより、ストリッパーたちの次の活動場所も決まり。場末の温泉場に静かに幕がおりていく。

【感　想】
松尾さんの魅力が一筋の乱れのないストーリーだとしたら、宮藤さんのそれは使い旧したマフラーからあちこち顔を出す、ほころびた毛糸なのかもしれない。
松尾さんのストーリーは一本ではなくて、何本も同時進行することもあるが、それでもそのストーリーはあくまで、一本なんである。びしっとしている。
が、宮藤さんのストーリーは、ホントに毛玉のように、あちこちからいきなり突然、別のエピソードが顔を出したり、脈絡のないコントが飛び出したりする。
なので、アラスジが書きにくいったら。
宮藤さんの魅力は、アラスジに書けない行間にあると言えるかもしれない。うん、たぶん。

ついに、宮藤官九郎、大人計画本公演に登場。
ウーマンリブ格上げと見ればいいのか、それとも、大人計画別働隊と見ればいいのか、なんだか複雑。
クドカンはもちろん好きだが、松尾信者としては、大人計画はあくまで松尾スズキ脚本でやって欲しかったなーとも思う。まあ、観客の思惑なんて、いつでも無視される宿命にあるんだけども。
かつての売れっ子漫才師が元相方を捜すというエピソードは、「ウーマンリブ発射！」にも使われているが、あっちが、非常に悲劇的、言い替えれば松尾的であるのに対して、「春子」ではあくまで狂言回し的に使われているのが、自分には印象的。
宮藤さん、なんかあんたが、ピカピカと輝いてみえるよ！

役者・松尾を動かしたいという宮藤さんの目論見はだいたい成功？　ファンとしては、動いている松尾さんがいっぱい見れただけで嬉しい〜〜〜。そして、変質的な役をやらせたら、マジで日本一だと思うぞ＞松尾さん　
冒頭のパンティを指でくるくる回しているシーンとか、大好き！　ブックにだまされてたことを知った時のうなだれ方も最高！　松尾さん、もっと役者として活躍して下さい。してるか。
大人役者の皆さんでは、やはりというか、村杉さんの存在感は最高。出番はちょっとしかないのに印象強いったら。この村杉さんのセリフ「ありえねー」がこの夏、流行っていたと思うのは、わたしの勘違いか？

それにつけても、松尾テイストと宮藤テイストの違いを、いやというほど認識させられた舞台だった。
まるで、かつての「惑星ピスタチオ」のように。あの劇団は、耽美のミラノ、アクションのシャトナーと、誰が見てもはっきりわかるほどカラーが違っていたので、まるで二つの劇団があるようだったが、大人計画においては、そこまではっきりとは違っていない。
今後、大人計画がどうなるのか、松尾さんと宮藤さんがどこへ行くのか、震えながら待っていたいと思う。