heven's sighn

新井亜樹	【指村ユキ】猫殺し、20歳の誕生日に自殺予告
山本密	【メイジ】催眠術を得意とする世界の狭間の落とし子
顔田顔彦	【ウメゾウ】旅一座の跡取り息子
村杉蝉之助	【指村タネアキ】ユキの父。化粧品会社の研究員
村杉蝉之助	【ウサギ】兎芸術製造機
松尾スズキ	【ユキの叔父】性格破綻者
阿部サダヲ	【足し頭】頭にシリコンを入れている
阿部サダヲ	【神】渋い医師の妄想の神
宮藤官九郎	【背広】背広が上手く着られないノイローゼ
宮藤官九郎	【哀しい医師】精神科医
井口昇	【宇宙人】宇宙人と思い込んでる
猫背椿	【ドブス】拒食と過食
宮崎吐夢	【女優】女優と思い込んでる
宮崎吐夢	【オトコガワムギノスケ】旅一座の座員
池津祥子	【マーサ内藤】クラブ歌手。ベビーシッター
皆川猿時	【山田夫】ユキの隣人
皆川猿時	【渋い医師】精神科医
田村たがめ	【山田妻】ユキの隣人
田村たがめ	【ふじみさき】旅一座の座員
田村たがめ	【看護師】精神病院の看護師
植田裕一	【ハナサキギュウゾウ】旅一座の座長
植田裕一	【島津】山川物産専務
荒川良友	【アラカワダイゴロウ】旅一座の座員
荒川良友	【警備員】
宍戸美和公	【チョウノユメキチ】旅一座の座員
宍戸美和公	【母親】ユキを捨てた母
レシャードマユミ	【スーザン】交換留学生
鳥海愛子	【少年時代のメイジ】

【物　語】
世界の狭間に生まれた子供は、産院に忍び込み赤ん坊たちを混ぜこぜにする。混ぜられても泣かなかった赤ん坊を気に入り、追っかけになると祖母に誓う。
それから十数年、精神病院職員がお互いに殺し合うという事件が起きた。犯人は、かつての子供・メイジ。催眠術で人の心を巧みに操る。
大混乱の病院内で、入院患者であるユキに出会ったメイジは、笑えないユキを気に入り、「君は生きていい」と告げる。

ユキは父親の仕事が気に入らず、自傷行為を繰り返していた。父親の仕事はウサギ殺し。化粧品会社に勤務している研究員だ。
少女はインターネットのHPに自殺予告を載せた。かつて精神病院に入院していた過去も隠そうとはしない。退院はしたが、自分が正常だとは思えない。いや、 狂っているのは世界のほうか？
ユキに興味を持ったというウメゾウが撮ったインタビュー動画がネットに拡散されていく。

ユキが精神病院に強制入院になったのは、近所中の猫を殺したからで、父親は一人一人に土下座で謝りまくっていた。隣の山田夫婦が親切ごかしに尋ねてきてコーラス団を結成したという。
夫婦を押しのけるように叔父がやってくる。性格破綻者である叔父はユキの孤独を理解できるのは自分だけだと騙し、14歳からずっと性的虐待を続けている。そこに、一緒に海に遊びに行っていた足し頭がやってくる。
頭にシリコンを入れている足し頭は、韓国で覚醒剤を頭に隠し持って密輸するんだと語る。おかげで、シャブ中で幻覚を見るのだと。足し頭は金が入ったらユキと一緒に南の精神病院に入ろうと誘う。
その時、扉の隙間から大量の血が溢れ出す。
父親は子供より先に死ななければならない。ユキの自殺予告を見た父親は、扉の向うで死んでいく。ユキは半狂乱になって扉を叩き、「自分がこんなふうになったのお前のせいだ、育て直せ」と叫ぶ。

父親の葬式の日、精神病院時代の仲間が少女をなぐさめに集まってくる。
そこに誰も知らない全身包帯だらけの片目の女・マーサ内藤がいた。マーサはベビーシッター協会から派遣されてきたと言い、ユキの母親としてユキを一から育て直すのだと宣言する。マーサに言われた通り、精神病院仲間たちは、先生や恋人と役割を振られてカウンセリングに参加する。

旅芸人一座であるハナサキギュウゾウ一座が、チンドン屋よろしく興行の宣伝をしながら歩いている。
跡取り息子であるウメゾウは、旅の途中て拾った少年メイジにハマっている。メイジは学校に行ったことがなく、字が読めない。だが、催眠術はじめとしていろんな知識を持っている。そして、世界の終わりを待っている。
一座は知らないうちにメイジに支配され、メイジが見つけた【生きる価値のない人間】と座員たちがどんどん混ぜこぜにされている。
それに気づいた座長夫婦はメイジのウメゾウに刺殺される。

カウンセリングをしているマーサはいつのまにかメイジの姿になっている。
ウメゾウはメイジの興味が自分からユキに移っていることに気づき怒る。メイジの指示でユキにインタビューをしたり、両親を殺したりしたのに、メイジの悪ふざけに付き合っていたりしたのに、今更捨てるのかと。
メイジは微笑み、ウメゾウは混ぜこぜにした赤ん坊の一人で、本当は山川物産の一人息子だと告げる。ウメゾウにかけた催眠術を解き、迎えにきた専務と一緒にウメゾウは去る。

ユキと二人だけになったメイジはユキに一緒に行こうという。
メイジが選んだ「生きる価値のない人間たち」7人と、新しい世界で生きよう、新しい世界に導いてくれ。
メイジは福助と福助の母親の子供で、三人はずっと旅をしていた。旅の途中に福助は自分の知識をすべて与えた。だが、因習深い村を訪れた時、化け物として福助は栗の木に吊るされて死んだ。

新しい世界へ行こう。そこに、ずっと恋人役として待機していた足し頭が待ちきれなくなって乱入してくる。
足し頭の頭を叩くメイジ。足し頭の頭の中には覚醒剤が隠されている、頭を叩くと、その覚醒剤が足し頭に注入され、もうどうにも止まらない。
そこにメイジに轢かれて包帯だらけのユキの母親が、遺産目当てにやってくる。目立ちたくてユキを捨てた母親は、叔父とともに【生きる価値のない人間】一座に加わった。
その時気絶していた山田夫が目覚め、告別式のテープを再生する。BGMは「思い出のアルバム」　メイジが世界の最後にすると決めた曲。

メイジはユキにナイフを渡し、一番殺したい人間を刺すように指示を出す。そこにクスリが決まりまくった足し頭がユキからナイフを奪い、そこにいる人間たちを滅多刺しにする。疲れ果てて止めてくれと叫ぶ足し頭をユキは抱き止める。
屍体の山の中でユキだけ無傷だ。瀕死のメイジは自分の血でユキの顔に笑顔を描いてやると、「やっぱり君は生きる価値があったのかもね」と笑って死ぬ。
二人きりになった足し頭とユキ。今後のことを心配する足し頭はユキを見て言う「なんで笑ってるんだよ」
「……笑ってる。あたし笑ってる？」
ピース！

【感　想】
個人的に今のところ、墓まで持っていきたいほど好きな芝居。ナンバー1の座に堂々と君臨。
大人計画、初の二幕ものではなかったか？　今までそんなに長い芝居をやったことがなかったので、なんの用意もしていかず、最後のほうは空腹と戦っていたことをうっすらと覚えている。
一幕ラスト、舞台下手のドアの隙間から、だらーと血糊が流れてきたシーンは、かなり印象に残っている。ここで幕ですもん。いきなり終わりですもん。最強の引き具合にシビレタ。

池津さん、全身包帯だらけで登場。ちょうどこの頃、エヴァンゲリオンがはやっていたので、その影響かなと思ったが、やはり生身はいいですのう。メディカル ボンデージ指数高くて良し。個人的には、片目というのもポイント高し。歌いながら冒頭に登場した時は、かなりドキドキしましたっす。
新井亜紀さん、今のとここれが最後の大人出演……寂しいいいいいい。真っ赤な髪が印象的。ＯＬもやってたので、この公演中はこの頭で会社にいってたらしい。つーか、こんな濃い芝居をやりながら、日常生活を送るなんすごすぎ。すごいバランス感覚の持ち主なのか、スイッチを完璧に切り替えられるかどっちかな んだろう。新井亜紀さんの演技はとても好きなので、また出てもらいたいが事情があるのでしょう。残念だ。
そして、この作品キーマンはやはり、山本密さん。この役が好きで好きで好きで本当に大好きでした。ラスト近くの「二人で行こう」のシーンはせつな過ぎて、 なんだか泣けた。涙は出なかったけど。

この人が福助の子供という設定で、おお、松尾ワールドの完成かと思ったが、後はほったらかしですね。世界を構築する気がないようだ。松尾さんの中では、す べての芝居はつながっているのかもしれないけれど。
主人公は、当時話題になっていた、ドクターキリコ事件の関係者の主婦がモデルだそうで。ネットが普及し始めたときだからこそできた、芝居かもしれない。 「自傷系のメカニズムを解明」というキャッチコピーが、当時劇評にあった気がする。