キレイ【2005】

【物　語】
日本であって日本でない架空の日本。そこでは、キグリ・クマズ・サルタの民族紛争が百年にわたって繰り広げられていた。
マジシャン、マタドール、カウボーイの三人に誘拐され、十年間も地下室に幽閉されていた少女は、すべての過去と記憶を捨て、地上へと出た。覚えているの は、カミに言われた「地下室を出ればおまえはケガレる」という言葉のみ。

地上では戦争の真っ最中だった。戦うために大豆から作られたダイズ兵の屍体回収業者カネコ組は、戦場を忙しく働いている。地上をさまよっているうちに、カネコ組と出逢ったケガレは、そのバカさかげんを見込まれ、仲間にはいることになる。
胎児の時に頭を刺されバカになったという次男・ハリコナは、枯れ木に花を咲かせる能力を持つ。ケガレのために、いつでも花を咲かせてやると約束する。

自分のやってることが、慈善なかの偽善なのかわからない、ダイズ兵製造工場の娘・カスミは、ケガレに興味を持ち、やがて友達となっていく。そんなカスミに惚れているジュッテンと、カスミの工場を手にいれるためにカスミほ陥れようとするジョージ。
ケガレおかげで、カスミを脅すネタを手にいれたカネコ組は、カスミのダイズ製造工場を手中におさめることに成功する。
成功に酔う間もなく、ハリコナに召集令状がき、クマズへと出兵することになる。
順調に富をためこんでいくカネコ組に、ハリコナが捕虜となったとの知らせが届く。ハリコナを救うためにカネコ組は戦いながら、クマズへと向かう。その戦闘のさなか、撃たれそうになったカスミをケガレがかばう。

5年間の昏睡状態から目ざめたケガレの見たものは、すべての財産を自分に ゆずったカスミと、戦闘のショックで天才になったハリコナだった。ハリコナは、天才になったと同時に、ゲイになっていたが、ケガレの持つ財産のために愛のない結婚を持ちかける。ケガレは承諾し、名前をミサに変える。
ダイズ兵の中で、ほんのきまぐれから生殖能力を持たされてしまったダイズ丸は、生きた証を残すために、ミサに自分の子供を生んでくれと頼む。
宇宙開発にすべてを賭けてしまったハリコナは、そんなミサの気持ちに気づかない。やがて、取り返しのつかないところまで亀裂がはいり、ミサとハリコナは別れる。

行き場のないミサとアイダとダイズ丸を引き取ったのは、かつてケガレを誘拐したマジシャンだった。生きるためにサーカス団で働くことになったミサたち。
ミサは、最近ますます頻繁に見るようになった、カミの幻と、過去の幻影に怯える。
一方、捕虜収容所から脱出してきたジュッテンは、カスミに告白し、喜びのあまり目が見えるようになるが、すぐまた召集令状がかかって連れていかれてしま う。
会社の資金繰りがうまくいかなくなったハリコナは、いろいろな謀略をめぐらしている。その謀略の過程で、政治家になったキネコを暗殺しそうになる。キネコをかばってカスミが死ぬ。その場に居合わせたジュッテンは、二度と目を開けないことを誓う。

ハリコナは開発したロケット実験のため、自らロケットに乗り込む。その時、ヘルメットにはいった蜂がハリコナの頭を刺す。再び、バカに戻ってしまったハリコナの目には、宇宙が広がっている。
いろいろあったミサだったが、封印した過去と決着をつける決心をする。自分が閉じ込められていた地下室におりていったミサは、そこでケガレと出逢う。
自分が生き残るために、他人を殺すはめになったことや、快楽に溺れていたことをすべて思い出す。カミの視線とは、自分の視線だっのか？
ミサ＝ケガレは、もう一度地下室で生まれ変わるため、語り合いを始める。

【感　想】
ところで、酒井若菜嬢の病気はいつ治ったのでしょう？
前代未聞の主役降番。
しかも、初日三週間前の「緊急胃腸炎」という理由は、新感線の「大江戸ロケット事件」とともに、この先長く演劇界に語り継がれるでしょう。ふー。

正直、期待してなかった鈴木蘭々だが、予想以上に歌がうまくてびっくり。演技もなかなかだったし、なにより雰囲気にしっくり馴染んでいたのがよかった。
酒井若菜がそのままやるよりもよかったのではないかと、こうなったら無理矢理にでも思うことにしよう。

再演。
大人計画初ミュージカルにして、松尾さんの作品にしては毒気が少ないので、コクーンで上演するには相応しい作品なのでしょう。
再演にあたり、脚本が少しわかりやすくなり、ダンスシーンが増えて、歌も増えたのかな？
セリフも多少変わったりしていたのはいいんだが、ハリコナの最期のセリフが変わっちゃったのは、ちょっと残念。
宇宙の果てに固執していたハリコナが最期に悟ったのは、「宇宙は見えるところまでしかない」。
つまり、宇宙は自分の主観の世界にしか存在しない、ミサとケガレもそれぞれの自分の主観の世界にしか存在しない、そのあたりにかけてたのかなと、勝手に思っていたので。
まあ、いいや。
主観の世界にしか存在していなかったのは、マジシャンと彼にだまされた人たちもそうであるのだけど。

ほぼ変更なしの配役で、唯一変わったのが宮藤さん。
マジシャンになるとは予想外だったので、びっくりした。
山本密さんの変態性が強く、狂気を孕んだマジシャンに比べると、ちょっと普通かなと。普通の人の中の狂気という役作りなのかもしれないけど。
宮藤さんのジュッテンが好きだったので、これもちょっと残念。

そして、最大の変更と言えるのが、ラストシーン。
初演では、高らかに歌い上げる奥菜恵の前で、松尾さんがうねうねと奇妙な踊りを披露し、邪魔をしていたのに、今回はなかった。
松尾さんは、心の底から文化人になってしまったのか！
もう、照れ隠しは必要ないのか！
照れ隠しをしない真っ向勝負の今回のラストは、今の松尾さんの宣言のようで、誇らしくもあり寂しくもあるファン心。ああ、こうやって人はカワッテいくのね。

今回は、スポンサーがいっぱいついたので、セットも豪華。
なによりびびったのは、コクーンまでの道玄坂の街燈にですね、「キレイ」の宣伝用の小旗が飾られていたことだ。ここは、どこの世界だと思ったよ。いや、日本で渋谷だが。