涙事件

【物　語】
法廷で裁判が行われている。
弁護士二人、裁判官、書記官、検事、警備員、そして中央には被告人。
被告人・涙おさむによる、涙さゆり毒殺事件の公判だ。涙おさむが語る悲しい事件とは。
芸能事務所所長の涙おさむは、演歌の大御所の新年会にやってきた。そこで出会ったのが、涙さゆり。さゆりは、大御所の池の鯉を口いっぱいに頬張り、おさむの前に姿を現したのだ。さゆりは貧乏、そして味覚障害。口にはいるものならば、なんでも食べてしまう。
その時、おさむの耳に飛び込んできたのは、大御所が発した一つの言葉。

「演歌の勘所は不幸や」

これだ！　と思ったおさむは、さゆりを貧乏味覚障害演歌歌手として売り出した。目論見はまんまと当たり、さゆりの歌は大ヒットした。
それに気をよくしたおさむは、卵アレルギーの涙史郎を売り出し、ハンディキャップ演歌というジャンルを作りあげ、次々に歌手を送りだす。船酔いで船に乗れない漁師・涙きよし、オランダ人と間違われるロシア人・涙ハイネケンのデュエットはそこそこ、ヒットする。が、調子にのって、脳性麻痺の演歌歌手を売り出した時は、さすがに世間から引かれた。
それが、転落のきっかけになったのか、なんと、涙史郎の卵アレルギーが完治！　もはや、ハンディキャップがなくなってしまう。と思ったら、史郎は謎の焼死。おさむは、残された史郎の妻・初枝に演歌を歌わせるがそれも全然売れない。

史郎がひたすら右往左往しているうちに、更にとんでもない事態になっていた。薄幸の美少女さゆりが、デブデブ大デブになってしまっていたのだ。金持ちになり、なんでも好き放題に食べられるようになったさゆりは、おさむの言うことも聞かず、巨デブと化していた。
こんな演歌歌手の歌う不幸な歌なんて、誰も共感はしてくれない。
おさむは、さゆりに毒入り弁当を食わせ、殺害したのだ。

裁判が進む間に、史郎の焼死も実はおさむの仕業だったということが発覚する。アレルギーが治った史郎に不幸を陥れるために、本当は初枝を殺すつもりだったのを、史郎が美脚ために間違えたのだ。
嗚呼。すべては、御御所の「演歌の勘所は不幸や」という言葉を実現させるため。不幸でなければ、演歌ではない！

証人と呼ばれたおさむの姉・杉田は証言する。おさむはさゆりを愛していたと。愛と演歌の大御所の言葉にはさまれていたのだと。おさむが用意したのは、毒のはいっていない弁当とはいっている弁当の二つ。だが、さゆりは両方とも食べたのだ！

弁護側、検察側からの証人喚問も終わり、被告人もすべてを語り、裁判官は判決を下した。
死刑。
死刑場に引き立てられたおさむに、警備員は語る。
「ずっと裁判を聞いてたんですけどねぇ、大御所の家にはサンダルがあったんじゃないんですか？　新年会だと客が勝手にサンダルをはいちゃ、そのへんに放り出していく。大御所はそれを我慢できなかったんじゃないっすかねぇ。つまり、玄関のサンダルは向こうや。演歌の勘所は不幸や、に似てません？」
ええー、俺の勘違い〜〜〜？と叫びながら、おさむは死刑に処されたのだった。おしまい。

【感　想】
このあらすじだと、法廷内のことがまるで抜けているけども、実際は法廷内の侃々諤々の合間に、涙おさむの回想シーンが挟まるという構成。
やたらと焦ってばかりいる小心者の検事の阿部ちゃんと、ポリシーでスカートをはかないという厳格な弁護士池津さんのやり取りが、すげぇおかしい。小ネタも満載だし。一番笑ったのは、池津さんのパンツがピンク→オレンジにいつの間にか変わったこと。検事が、この人おかしいでしょう、法廷でパンツ脱いでんですよ！とか叫ぶも、誰一人として顔色を替えずに淡々と進む裁判というのが、面白かったなあ。
紙ちゃん、宮澤さんは交互出演。理由は知らない。
自分が見た回は紙ちゃんだったんだけど、鯉をくわえて白目むいてビクビクしている姿には、女優魂を感じましたよ！　いやあ、すげぇよ、あれは。

すごいと言えば、演歌の大御所の新年会に毎年招かれて、おさむの仕事が成功するたびに、大御所の姿がでかくなるという小ネタがあったんだけど、最初は人形だったのに、最後はコスプレした宍戸さんだったのが。それがもう、まったくピクリとも動かないから、マジで人形だと思った。阿部ちゃんに胸揉まれても動かなかった。その姿に熱い女優魂を感じたです。

演歌歌手の裁判ということで、証人喚問や回想シーンでは、必ずカラオケ熱唱。歌ったのは、紙ちゃん、吐夢さん、猫背さん、成志さん＆伊勢さん、かな。宮藤さんも一応、歌ってはいたが、唸ってるようにしか聞えない。
そうそう、宮藤さんの出番は舞台を端から端まで歩くだけ、でございました。久しぶりに、障害者役を見たよ。なんか、楽しそうに演じてましたね。

そんでもって、松尾さんの代役の成志さんが、最高におかしい！　この人にこういう役をやらせたら、アカン。似合いすぎるから。検事の阿部ちゃんから、次々に質問（それもくだらないやつ）をされるんだけど、答えが全部笑えるのがすごい。松尾さんだったらこのシーン、もっとねっとりしたもんになったんじゃないかなーと思うが、成志さんはまさに、成志ワールドを大人計画内に出現させてしまったのだ。すごすぎる。
金髪オランダコスプレの伊勢さんも、わけわかんなくて素敵。

やつれた主婦の猫背さんも、デブさゆりの皆川さんも、気弱な弁護士助手の近藤さん、卵アレルギーの吐夢さんも、おさむの愛人のたがめさんも、みんな生き生きとキャラ立ってて、よかったなー、面白かったなー、素敵だったなーという舞台。
そして、予告通り、主役に抜擢された村杉さん。一番しゃべってたね。ラストシーン、自分の勘違いに気づいて慌てるとこが、なんか一番似合ってるなと思ったけども。村杉さん、主役いけるじゃん！　今度はぜひぜひ、普通本公演でも主役で見てみたい。