マシーン日記

【物　語】
とある町工場。同じ敷地内にある壊れそうなプレハブ小屋に、足を鎖でつながれたミチオが監禁されている。
兄嫁であるサチコに手を出したせいで、兄アキトシに監禁されたのだ。
サチコは学生時代にいじめられていて、それが今でもトラウマになっているオドオドした顔色の悪い女だ。
工員として就職したのに、いつのまにか、アキトシに手篭めにされ、なぜか責任を取らされ結婚した。そもそも最初は、弟と付き合っていたのに。
アキトシが気持ち悪く怖いサチコは、密かにまだミチオとつながっている。

そんなある日、工場に大卒の女ケイコが就職してくる。
アキトシはこれで俺も一流だと有頂天だが、ミチオはまったく興味がない。
ケイコはサチコの中学時代の体育教師で、自分を律するために、極悪な環境に身を置きたくてここに来たという。
まあ、つまり修行だ。修行の一環として、ケイコはミチオのマシーンになると宣言する。どんなに間違っても愛せない虫ケラ以下の男、それがケイコにとってのミチオなのだ。
面白がったミチオは、ケイコを自分のおもちゃにする。
ミチオは昔いじめられたことを恨んでいて、修理した家電に盗聴器を仕掛け、町内地図に自分をいじめた人間の家を書き込んでいた。

ある日、ミチオとサチコがいちゃついているところに、アキトシがやってくる。
パニクった二人はアキトシを殴り殺してしまう。死体処理に困った二人は、とりあえずアキトシをトイレに隠す。
ケイコが来る前に逃げようとしたサチコは、ミチオの鎖を斧で切ろうとするがなぜか間違えて、膝から下を切り落としてしまう。
ケイコがやってきて、ミチオの子供を妊娠したと告げる。悪夢だ。トイレからアキトシが飛び出してきた。血まみれだが、死んではいなかったのだ。

オズの魔法使いに憧れていたサチコは、この状況に興奮して叫ぶ。
ミチオはかかし、ケイコはブリキのきこり、アキトシはライオン、そして、あたしはドロシー。
オズのテーマとともに、サチコはケイコに頭を割られて死んだ。
アキトシは窓の外に放り出され、ペットのワニに襲われた。
ケイコは、ミチオをいじめた家に復讐に行くと告げ、町中に火をつけ始めた。
ズブ濡れで血まみれのアキトシが戻ってくる。ワニに片玉を噛みちぎられただけで、死んではいなかったのだ。
ミチオは言う。「俺に子供ができたんだって、俺ちゃんと社会人になれるのかな、俺だけだよな、ちゃんとしなかったら首折られて死んじゃうの」
ミチオは笑う。笑いつづける。笑うしかない。

【感　想】
再演。
スズキビリーバーズとして、悪霊とともに再演の運びとなった。
当時、金がなくて、見にいけなかった作品なので、再演はすごくすごく嬉しい。
シアターテレビでやった初演は見たけれど、やはり舞台は空間で見ないと醍醐味が味わえない。舞台は2Ｄじゃなくて、3Ｄなんだよ、と当たり前のことを思ってみる。

片桐はいりさん圧巻。
これは片桐はいりのために書かれた芝居といっても、過言ではないだろう。もちろん、片桐さん以外の役者さんでもこの役はできるとは思うが、それは別物だ。
後にテレビでドラマ化された時は、松田美由紀さんがやっていたが、あれは別物だった。
つーか、テレビでこの作品をやろうというほうが、無理がある。がんばってはいたけれど。片桐はいり圧勝。少なくとも、自分の中では永遠のチャンピオンだ。

阿部ちゃん松尾さんは期待通り。
つくづく、阿部ちゃんと松尾さんの演技のうまさを思い知った芝居でもある。
こういう少人数のプチ芝居というのは、松尾さんには珍しいので、また書いてくれたらいいなーと思う。

宝生舞ちゃん……弱いいいいいいい。でも、この弱い部分がまた良いのだ。強い者ばかりで世界を構築しても、強さ同士で壊しあいをするだけだ。弱い部分が一箇所でもあれば、そこに向かって崩壊すればいい。
物語世界の弱い部分と、舞台上の弱い部分がぴったり重なり合って、気の毒なぐらい宝生舞ちゃんはハマリ役でよかった。 特に、キンキンした頭に突き刺さる金属的な声がいい。テレビを通すと、ああいう声ではいので、わざと出しているのか。それも、演出の一つなんですね、松尾さん←ファンは盲目

4人だけの狂った王国。誰が狂っているのか、誰もみな等しく少しづつおかしい。ずれている。
でも、ここではこれが正しい。
少人数の集団が常識から乖離した事件を起こすことは時々あって、でも表面上はみんな普通に近所付き合いをしている。
この4人の人物だってきっと、近所付き合いは普通にしているはずだ。
だって、曲りなりにも町工場はやっていけてるんだから。
ふとした瞬間に突き抜けてしまう。
弟を監禁したり、町内を盗聴したり、夫の弟と通じたり、マシーンになったり。
駄目な人たちの駄目な世界。
案外、そこら中に転がっている、ありふれた家族の姿なのかもしれない。