HAZE-Original Long Version
【プロデューサー・製作・監督・脚本・撮影監督・美術監督・編集】
塚本晋也
【音楽】
石川忠
【出演】
塚本晋也（男）
藤井かほり（女）
若い男たち（村瀬貴洋/神高貴宏/辻岡正人）
若い女（さいとう真央）
男が目覚めると、身動き一つとれないコンクリートの箱のようなものの中にいた。
数センチの隙間しかない、ぴっちりとしたコンクリートに圧迫されている。全身に走る激痛。特に腹部がひどく出血しているようだ。
男には、目覚める前の記憶がない。気がついたら、この地獄にいたのだ。
男は恐怖に突き動かされるようにして、脱出を試みる。コンクリートの異常に狭い空間を、狂気ギリギリの精神力で移動する。
広い場所に出たかと思えば、別の横穴に突き落とされ、鋭い槍が体を刺し貫く、鉄格子のはまった窓を見つけたが、窓からは砂利が投げ入れられ目つぶしをされ、更に鉄球が体を押し潰そうと襲ってくる。
どこまでいっても狭い空間は続く。光は見えない。
やがて男は力尽きるが、その時、何かのイメージが閃いた。それは失くした記憶かもしれない。
男は最後の力を振り絞り、やがてバラバラ屍体が浮く血の池にたどりつく。
そこには、下着姿の女がいた。女も同じようにして、この場所にたどりついたらしい。
ここが地獄の終点。池から脱出するには、半分水に沈んでいる狭い入り口を抜けていくしかない。
先は見えない。進んでも、どこかに続いているとも限らない。
「ここに連れてきた誰かは、わたしに何かを思い出させようとしている」 女は言う。
男は諦めようとするが、女は先に進むという。女の強さに圧倒されるようにして、男も後に続く。
水路は狭く、徐々に天井が狭くなってくる。ついに、女の力が尽きて水に沈む。
「必ず助けてやるから」
男は、天井の割れ目に頭をぶつける。男が頭をぶつけるたびに、外の風景が見えてくる。そこは普通のマンションの部屋だ。
男は脱出した。
その先には血まみれの女が倒れている。心中を持ちかけられ、承諾した女だ。まだ生きている。男の指が携帯電話にかかる。
それから数十年後の青い空。
あの日、死んでしまっていたら見ることのなかった空を、男は見上げる。
フィルムの質感にこだわり続けた塚本監督の初デジタルビデオ作品、HAZE。の、これはロングバージョン。
正直、普段、映画を見慣れていない身には、フィルムもデジタルビデオも、ああ言われてみれば違う……かも？程度の差しかわからないのだけど、今回の作品はデジタルビデオならではの、非常に粗い画面がこの題材にあっていて、想像以上の相乗効果を与えているように思える。
単純に、この映像をクリアに見せられたらちょっと嫌かもと思ったりもするのだけど。
粗く、目を細めないと細部がよく見えないほど暗い映像は、「男」が陥った暗黒の地獄をよりリアルに我々観客に提示するのだ。
「鉄男」でさえクリアに思えるこの映像、はっきり言って、シビレた。
カッコよす！！！
肉体的苦痛を提示しても、当然のことながら観客は実際には体験できず、視覚情報と聴覚情報をたよりに脳内再現をするわけだが、塚本監督のすごいところは、どの作品においても、観客に対して狙い通りの脳内再現を実施させるところにある。
全身をコンクリートの箱に押し込められた圧迫感、歯が鉄パイプで削られていく感触、逆さまに落ちていく落下速度、全身に差し込まれる刃の痛み、血の池の人肌の生温さが、完璧に脳内再現され、より恐怖は増幅される。
その中でも一番訴求力が強いのは、ここから出ていきたいという強い欲求。
それこそが、この映画のキモであり、監督の狙いでもあるのだろうと思った。
なんにせよ、とにかく映像が素晴らしいので、デジタルカメラの短編をこれからもどんどん撮っていただきたいと強く思う。
企画を埋もらせるなんて、映画の神様が怒ります。