六月の蛇
【プロデューサー・脚本・撮影監督・美術監督・照明監督・編集】
塚本晋也
【音楽】
石川忠
【出演】
黒沢あすか（辰巳りん子）
神足裕司（辰巳重彦）
塚本晋也（飴口道郎）
心の健康センター電話相談室に勤めるりん子は、エリート会社員の夫を持つ、世間的には成功した人間。
だが、夫婦間のセックスは絶えて久しく、潔癖症の重彦は毎夜ベッドから抜け出し、家中を磨きあげなければ気がすまない。
ある日、りん子宛に大型封筒が届く。中にはいっていたのは、数葉の写真。
それは、りん子の自慰行為を隠し撮りした写真だった。
りん子を監視しているかのようなタイミングで、同封されていた携帯電話が鳴りだした。
写真の送り主は、かつてりん子が相談室で電話を受けた相手・飴口だった。
飴口はりん子に生きる希望をくれたことを感謝し、これからはやりたいことをやって生きるという。
飴口は、りん子にもやりたいことをやって欲しいのだと言い、写真を返して欲しければ自分の言うことをきけと脅す。
拒否したりん子だが、執拗に送られてくる写真に根をあげ、飴口の指定した駅のトイレへと急ぐ。
りん子はそこで、一人の時に密かに来ていた超ミニのワンピースに着替えさせられ、ノーパンで大人のオモチャを買いに行くよう強要される。
その後も、飴口の屈辱的な指示は続き、やっと解放されたりん子は駅のトイレで号泣する。
りん子は飴口から自分を撮った写真をアルバムに仕立てたものを受け取る。
最後のページには、自分を解放したりん子の笑顔が映っていた。
直後にかかってきた飴口からの電話は、「病院に行って下さい」とだけで、切れた。
一方、重彦の潔癖症はだんだんとひどくなるばかりだった。
ある日、重彦はりん子の見たことのないような晴れ晴れとした笑顔の写真を見つける。
飴口が密かに送りつけていたのだ。
やがて、重彦はりん子が浮気をしているのではないかと疑いだし、日々は疑心暗鬼でいっぱいになる。
ミニのワンピースで出かけるりん子を見かけ、重彦は後をつける。
そこには見たことのない妻の姿があった。
どしゃぶりの雨の中、空き地にたどりついたりん子は、そこですべてを脱ぎ捨て、絶叫する。
見ているだけしかできない重彦の横を飴口の乗った車が通り過ぎ、飴口は激しくもだえるりん子を撮影する。
それでも、表面上は何も変わらない日々。
飴口は重彦を拉致し、倉庫の中で暴行する。
りん子は乳癌に冒されていたのだが、重彦が手術を嫌がるので、切らなくても治ると嘘をついていたのだ。
飴口にりん子の嘘を教えられた重彦は、警官を襲い拳銃を奪う。
りん子はいつものように夕飯の支度をしている。
飴口は子どもの頃に自作したカメラで、自分の姿を撮った。
末期癌の飴口の最後の写真だ。
りん子は、飴口の「俺はもう逝くわ」という言葉に、「わたしもすぐに逝くわ」と応える。
拳銃を持った重彦が部屋に飛び込んできて、乱射する。
重彦を見つめるりん子。
やがて二人は激しく、お互いを求めあっていく。
見るたびに衝撃を受ける。
それが、塚本映画。
この映画が、塚本映画の原点であるということは、本編を見た人ならば、納得いくだろう。
それほど、「塚本晋也」が凝縮濃縮されているのだ。
もしも、わたしが今まで塚本晋也を知らなくて、たまたまこれを見てしまったら、間違いなくファンになってるだろうと断言できる。
普段、映画などこれっぽっちも見ないわたしが、塚本映画だけはなぜか知らんが十年以上もずっと好きでいるいう現象の答えが、ここにあるのかもしれない。
この映画を見ると、つくづく人間は感情の動物なのだなあと思い知る。
一つ一つのシーンで、なんか涙が出てくる。別に悲しいわけでも悔しいわけでもなく、感情を刺激されての反射行動の一つだと思うんだが、それぐらい、感情をゆさぶられる。平静ではいられない。
役者塚本としても、最高傑作。
飴口のラスト近くの独白、「このカメラであんたを撮りたかったなあ」
このセリフの時、完璧に飴口と同化している自分がいた。
もう本当に塚本晋也はすごい。
監督としても役者としても、すごすぎる。
塚本晋也の死後（縁起でもない）ではなく、同時代に生きている幸運に感謝だ！！！！