female〜玉虫
【プロデューサー・監督・脚本・撮影】
塚本晋也
【音楽】
石川忠
【原作】
小池真理子
【出演】
石田えり（女）
加瀬亮（男）
小林薫（じじい）
東京から数十キロ離れた田舎町。
一面の田んぼの中のちょっとした林の中に、それはある。
一軒の小さなあばら屋。そこには女（石田えり）が一人で住んでいる。
女は人間関係にちょっと難があり、そのせいか縁あってじじい（小林薫）の囲われ者として生きている。
ぐんぐんと伸びる、夏草。
女はじじいに、そろそろ自分も働いてみたいと言い出すが、じじいに軽くいなされてしまう。
そんなある日、じじいが一人の男（加瀬亮)を連れてくる。
女は予想外の客に戸惑いながらも、男とじじいを歓待する。
じじいは、男に女のことを頼むと頭を下げる。
やがて、じじいは眠り込んでしまい、残された二人はいつしか激しく口づけを交わしあうのだが、轟く雷に我にかえったように、じじいを気にして体を離す。
じじいと男はヤクザ同士の抗争に巻込まれ、重傷を負ったじじいは入院するが、女には自分の病院を教えようとはしない。
男が女の家にやってきて、激しく女を責めたてる。
じじいのことが好きかと問う男に、女は大好きだと答える。
翌朝、じじいの病院を書いたメモを残し、男は消えていた。
女は盗んだ自転車でじじいの病院へと急ぐ。
だが、その途中で東京行きの標識を見た女は、方向を変え、どことも知れない明日へ向かって走り出す。
２０数分間の、本当に短い時間のショートフィルム。
塚本作品に関して言えば、ここまで短い作品は見たことがない……と思う。
「電柱小僧」だって、もう少し時間もあったような……
この作品が恐ろしいのは、すべて削ぎ落とされた骨格しかないからだ。
必要最低限のもので構成された映画。
行間を読むというより、行間で構成された白紙の小説のようだ。
原作は残念ながら未読なので、原作とどの程度違うのか、原作はもっと情報量が多いのか、それとも、塚本監督が原作に忠実に脚本化したのかは、わからない。
わからないが、この作品がすごいことはとてもよくわかる。
エロスとバイオレンスと孤独。
塚本監督の作品には、常にこの三点セットが必ずと言っていいほどあるのだが、この作品ほど、この三点が凝縮されて表現されている作品はないだろう。
その点だけをとってみても、この「玉虫」はツカモトイズムを端的に表している作品であり、塚本作品の入門編として成立するかもしれない。
いや、入門編とするには、イマイチ敷居が高すぎるか。
削ぎ落とされたもの、あえて描かれなかったもの、一つのものの裏にはその幾倍もの陰が隠されている。
それを読み取るのには、少しエネルギーがいる。
「六月の蛇」よりも少し青みの強い映像は、とても美しい。
カラーで描かれた穏やかな夏草との対比がまた、絶妙。