慶次郎縁側日記３ この作品のポイントは「喜怒哀楽」
失礼な話だが、あんまりにも演技がうまくて驚いた。
塚本監督は、実はものすごく演技の役者でもあるとは思っていたけれど、この作品ほど、きっちりと喜怒哀楽を演じ分けた塚本監督は見たことがない。
そのまま、役者養成所の教材になるほどの素晴らしさ。
たまたま殺人現場に居合わせたために、強盗に強制的に仲間になるよう脅され、強盗の仲間として生きてきた小心者の男。その小心さ故、金のために人を殺し逃亡する。
十数年後、名前を変え江戸にやってきた男は、古着屋として成功をおさめ、仏と呼ばれるほどの慈悲深さで有名になる。だが、元同心の主人公だけは、男がかつての殺人事件の犯人ではないかと疑い、追い詰めるのだ。
ＤＶＤも発売されたので、とにかく見ろ、言葉を発する前に自分の目で確かめろと言いたいぐらいの素晴らしさ。
罪の意識に震え、罪の発覚に怯え、死にたくないと絶叫する。そこには、人間としてのどうしようもない矮小さと醜さ、生きることへの執着心がある。
汚い部分をさらけだす塚本監督の演技があればこそ、重いテーマのこの作品も輝いたし、こちら側の心にもずんとしたものを残していったのである。
素晴らしい、とにかく素晴らしい。
世界で一番演技の美味い映画監督ではないかと、心の底からの絶賛を！
きたな(い)ヒーロー この作品のポイントは「コミカル」
作品の内容が、コミカルでハートウォームなので、しかも、塚本監督は準主役にしてキーマンなのですわ。
今までの作品のように狂気を求められることもなく、異端を求められることもなく、かといって、塚本作品のように生の本能を求められることもなく、求められていることは、ごくごく普通の一般人であるということ。
しかし、これがはまったー、はまったなあ。
塚本監督を知らない人にも、きっと、この役者さんいいじゃないと思ってもらえたと思う。茶目っけがあり、ちょと弱気、小心者で高校生と対等に付き合える心の広さもあり、でも、その実態は仕事に疲れたスタントマン。ヒーローショーのヒーローのコスチュームで体育祭に乗りこんでくるところは、実に微笑ましい。
新たな塚本晋也の世界を切り開いた作品とも言えるのではないか。
手放しで褒めてみました。
雨が来る この作品のポイントは「佇まい」
まあ、雰囲気と言い換えても言いが、ベランダでこうもり傘をさして、佇んでいる姿が最高！
存在感と置き換えてもよい。ただ、それだけなのに、ああ……となんだかわけわからん、もやもやしたものが喚起されてしまうのである。
嗚呼！
物語自体が難解でキャラの性格もよくわからないので、これ以上、なんとも言えなかったりするのがアレだ。読解力のない自分がいけないのか、ああ、でもよくわかんないんだよ。
よくわからないからこそ、塚本監督演じるを役を見ると、もやもやしてしまうのかもしれないが。
もやもやとする佇まい、ここまで出てるのにいという、モドカシサと同意の演技だ。
蝉しぐれ この作品のポイントは「目」
「眼」でもなく、ましてや「瞳」ではなく、真っ向勝負の「目」
塚本監督を時代劇に呼ぶなんて、ＮＨＫもすごいことすると思ったが、「人を殺せる目」のできる役者さんというのは、やはり、そうそう居ないのだと思った。
監督の「目力」の強さは、自作含めたいろんな作品で実証済みだが、時代劇というのは意外にあうなあ。素敵〜〜〜。
師範として登場した時の含みのある「目」
刺客としての殺気に満ち満ちた「目」
そして、自分が追い詰められた時のあの「目」もすごくいい！　
一瞬、自分の死を身近にに感じた卑屈な「目」
この「目」は「六月の蛇」でも、ちらほら見られた気がする。最高から最低まで振幅激しい感情を塚本監督の「目」は的確に表現できるのだ。
それも恐ろしいほどの、実感を持って！
死に際の、秘剣が見られて（斬られて？）満足そうな表情もいい！
出番少ないわりには、要となる重要な役をきっちりこなし、役者としての力量の確かさを見せつけたと思った。
マシーン日記 この作品のポイントは「狂気」
原作が、劇団大人計画「松尾スズキ」作品。
松尾スズキといえば、悪意と狂気をテーマにさせれば右に出るものなしという演劇人。彼の作品の中でも、静かなる狂気を淡々と描いた作品に、塚本監督が起用されるとうのは、役者塚本出演作品を見たことある方なら、納得。
番組プロデューサーのセンスの良さに、感心することしきりだ。
金属関係の町工場での出来事……という時点で、「鉄男」を連想する人も多いだろうが、近いようで遠い。
塚本作品に出演している役者塚本の狂気は、執着。
そして、一直線。
対象物しか見えてない、一直線の執着がはらむ狂気。
ただ一点しか見えていないので、その瞬発力、破壊力は抜群。我々は、こちらに向かって突撃してくる、役者塚本の狂気を背中に逃げ出すことしかできないのだ。
対してこれは、執着が一つではない。
兄が執着しているのは、嫁であり弟であり、すべてひっくるめた家族である。広範囲に粘着する狂気。
そのせいか、塚本作品における一直線な破壊力があまり感じられない。
だが、確かに横を見ているのに、真正面めがけて突っ込んでくる予測不可能な狂気に翻弄されてしまうのだ、我々は。
ある意味、恐怖と笑いは狂気と一点で同じものということを、びしっと演じている役者塚本。
笑っていいのか、怖がっていいのか、曖昧なまま強制的に思考力を停止させる演技は、新しい役者塚本であり、まさに「松尾スズキ」の世界を体現しているとも言える。 大好き。