物 語
麻子(高田聖子)は赤羽のボロアパートに住む45歳、独身。
社長(政岡泰志)と２人だけの会社で、ティッシュを配って20年。
社長にパワハラを受け、セクハラを受けまくり、アパートの隣の住民からもネチネチいびられ、唯一の楽しみと言えば、革命を叫ぶ海賊放送をラジオで聞くことだけ。
ある夜、麻子はラジオから呼びかける声に惹かれて、電柱をよじのぼり、ラジオ放送をしている薬師寺(丸山厚人)に会いにいく。
薬師寺は昼は人気のない「ふれあい牧場」のポニー係として働いており、夜な夜な海賊放送で革命を叫んでいたのだ。
誰も聞いていないと思っていたのに、会いに来てくれた人がいた。
麻子と薬師寺は瞬く間に恋に落ちた。
薬師寺と知り合い明るくなった麻子を社長は許せない。
上にへつらい、下は虐げるがモットーな社長にとって、麻子は自分よりも底辺の存在でなくてはならないのだ。
同じく、麻子が明るくなったことにより、自信を喪失してしまったアパートの隣の住人の元へ出かけ、三万円で麻子を物乞いさせるという契約を取ってくる。
麻子はティッシュ配りではなく、駅前で頭を下げて物乞いをすることを強要される。
ボロボロになった麻子に薬師寺は、会社を辞めればいいと言うが、麻子は社長は赤羽のティッシュ配りの元締めだから辞められないと答える。
薬師寺が「仕事はティッシュ配りだけじゃないんですよ」と言うと、麻子は愕然とする。
東京に出てきて20年、仕事とはティッシュ配りだけだと思ったいたのだから。
薬師寺は提案する。
この赤羽の住民すべてが不幸になってしまえば、麻子の不幸もその他大勢のありふれたものに過ぎなくなる。
まず社長を不幸にするため、麻子は社長に辞表を提出する。
激怒する社長に襲われる麻子。
そこに登場したのは、仮面をつけた薬師寺。
麻子がいなくなると、自分が底辺の人間になってしまう。
それに耐えられない社長は、雪と酪農の大地があると言われている、川の向こうの伝説の国ニシカワグ〜チへと旅立った。
２人は赤羽を不幸にするため、海賊放送を通じてアジテーションを開始した。
「今日は銀行を襲っていい日」「今日は高級車を奪っていい日」など、適当な出鱈目を放送していたところ、赤羽の底辺層が食いついたのだ。
気がつけば、赤羽は市民が銃を撃ち合う無法地帯になっていた。
麻子は生き生きと楽しうだったが、目の前で牧場の後輩を殺された薬師寺は、麻子に放送を辞めようと持ちかける。
同意しない麻子に失望した薬師寺は、一人で橋を渡りニシカワグ〜チへと辿りついた。
そこでは、いい人に変貌した社長が市長になり、ほのぼのとした市民たちと一緒に、幸福そうに暮らしていた。
やはり、麻子をここに連れてこよう！そう決意した薬師寺。
麻子が心配になり、海賊放送を聞いてみると、麻子の悲鳴が！
慌てて薬師寺は赤羽に向かう。
すると、社長が憤怒の表情に。
実はニシカワグ〜チは、不幸な麻子を観察するために社長が作ったほりぼて都市だったのだ。
一方、麻子は赤羽で一番余裕がある奴と思われ、市民から襲撃を受けていた。
危機一髪で間に合う薬師寺。２人は一緒にニシカワグ〜チへ脱出しようとするが、海賊放送のスイッチが入っていたため、市民たちに計画が筒抜けに。
自分たちだけ幸福になるのは許せないと、怒った赤羽市民はニシカワグ〜チへの橋を爆破する。
電柱に逃れた麻子ごと、薬師寺は川を渡り始める。
２人はニシカワグ〜チへ辿りつけるのか。
辿りつけたとしても、そこには高笑いをする社長が待っている。
それでも、今の２人は残念ながら、幸福なのだ。
感 想
高田聖子さんの個人プロジェクト。
新感線とはまっっっっっったく違う世界観で上演される舞台は、ここ数年、かなりセツナイ舞台になっている気がする。
今回もセツナイですよ、アラフォー独身、友達も恋人もなく、社長からは見下されセクハラ三昧、何が楽しくて生きているのか？と問いつめたくなる主人公。
彼女の心の支えは、海賊ラジオからの放送。
では、そのラジオに出会うまではいったい何が支えだったのか。
その時々で、心の支えを見つけ、また新たな支えを見つけては乗り換えていく。
実は主人公は、けっこうしたたかに強い人間じゃなかろうか。
帰り道に、ふっとそんな考えが浮かんだ。
女は強い、女は動じない。
まあ、きっとこれは脚本の意図から外れている感想だろうけど。
スズナリという小空間とは思えないほど、セットが次々と変わり、場面展開は激しく、電柱の上でのランデブーすら出現させてしまう。
まさに、演劇の醍醐味。
一番笑ったのは、ニシカワグ〜チの描写で、拡大した六花亭の包装紙をバックに「ニシカワグ〜チ、ランランラン」とニシカワグ〜チ市民たちが、輪になって踊るのだ。
帰りの電車でたまたま六花亭の紙袋を持っている人を見かけて、吹き出しそうになってしまった。
ひどい、あれは反則だ！
演出は木野花さんだったけど、笑いのツボの押さえ方がすごい。
社長の憤怒の表情が白塗りの隈取り(自分でその場でメイクする)だったり、社長のセクハラで服を脱がされた麻子の背中に膏薬が貼ってあったり。
役者さんが上手い人たちばかりなので、そういうベタな演出が、逆にハマる、笑える。
いかにも小劇場風味で、なんだかものすごく落ち着く空間だった。
次回も楽しみにしています。